株式会社レヴィ ブログ

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やはり一筋縄ではいかなかった。超小型衛星「ひろがり」の宇宙での挑戦。

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宇宙ステーションから放出された超小型衛星「ひろがり」(一番左の直方体の衛星)

レヴィの南部です。 前回のブログに引き続き、世話役の一人(一社)の視点から、超小型衛星「ひろがり」の話を書きたいと思います。

運用現場にいる学生の生の声は、運用情報twitterから読めますので、こちらも是非ご覧ください。

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宇宙ステーションから宇宙へ

3月14日に超小型衛星「ひろがり」が国際宇宙ステーションISS)から宇宙へ放出されました。


ありがたいことに、野口宇宙飛行士がキューポラから一眼レフで放出の様子を撮影*1してくれました。

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野口宇宙飛行士によって撮影された超小型衛星「ひろがり」


ISSからの放出に際して、JAXA TVに出演させて頂き、私も祝辞*2を述べさせて頂きました。

他に祝辞を述べられた方々は、九州工業大学の学長、パラグアイの大使といった大物揃いで、しっかりとした撮影スタッフによって、それっぽい場所で撮影されたものでした。 一方、私の場合は9歳の娘によって、自宅のリビングで撮影したものでした。 想いは誰よりも強いと思いますので、許してやってください。


<<お祝いの言葉>>
大阪府立大学室蘭工業大学の皆様、おめでとうございます。4年前のプロジェクトキックオフから、今日まで、とても長く困難な道のりでした。「ひろがり」ではなく、「つなわたり」だねと冗談を言った日もありました。厳しいスケジュールの中、大きな不具合が見つかり、目の前が真っ暗になった日もありました。それでも、歩みを止めず、走り続けた学生の皆さんを心から誇りに思っています。たくさんの苦難を乗り越え、たくさんの方たちに支えられ、ようやく掴んだチャンスです。「ひろがり」は、みんなの想いに応え、宇宙ですべてのミッションを達成すると確信しています。超小型衛星「ひろがり」の成果が世に出て、宇宙科学のさらなる「ひろがり」に貢献できる日を待ち望んでいます。これからが本番です。引き続き、いっしょに頑張りましょう!
<< Message >>
Congratulations to everyone at Osaka Prefecture University and Muroran Institute of Technology. It has been a very long and difficult road, getting from the project kick-off four years ago to here. There was a day when we joked that it was "TSUNAWATARI (Tightrope walking)" instead of "HIROGARI (Expanding)". There was a day when a big problem was found in a tight schedule and we have seen the darkest days. Still, I am truly proud of the students who have continued to run without giving up. We finally seized an opportunity after overcoming many difficulties and being supported by many people. I am confident that "HIROGARI" will respond to everyone's hopes and complete all missions in space. I am looking forward to the day when the results of "HIROGARI" will come out and contribute to the future of space science. Well, there is more to come in the next stage; Operation. Let's keep doing our best together!


ファーストパスが来ない

さて、放出から約1時間後、予定では、「ひろがり」からの電波(ファーストパス)が受信できるはずでした。


しかし、電波は届きませんでした。


他の衛星の受信報告が続々と来る中、「ひろがり」からの信号は届きません。


様々な原因を考えました。

「一番有力かつ希望的な原因は、アンテナ展開を保持しているテグスが切れておらず、アンテナが展開していないこと。電流が不足していたり、周辺温度が低かったりといった要因で、テグスが切れなかった。もし、そうだとしたら、24時間ごとに行われるアンテナ展開の自動実行シーケンスが走れば、そのうち切れるはず。云々。」

不安をつのらせながら、数日が過ぎました。

「もしかすると、深刻な故障が起きたのではないか。」

深夜の運用、何も聞こえてこない孤独な運用に運用担当の学生も日に日に疲弊していきました。それでも、衛星の仕様を再確認し、行ってきた試験を振り返り、「ひろがり」は絶対に生きている、アンテナを展開させようとしているはずだと信じ、運用を続けました。


「想定する故障に対し冗長系も組んだし、試験も行った。だから大丈夫だ。」


衛星の設計に真摯に向き合ってきた日々が私たちの心を支えてくれました。



そして、放出から1週間後の3月21日の運用、、、


ついに「ひろがり」の電波の受信に成功!



まるで映画のように、宇宙で迷子になった人工衛星からの声が突然届いたのです。

送られてきた衛星の健康状態は、極めて良好でした。


パドル展開への挑戦

「ひろがり」は、3つの展開機構を持っています。

  • アンテナ展開機構
  • パドル展開機構
  • ミウラ折厚板展開機構

フリーザのように3回変身するわけです。

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「ひろがり」の変身

どれも、ミッション達成には不可欠な展開機構です。パドル展開により、「ひろがり」は、直方体から翼をひろげたような第3形態になります。


実は、「ひろがり」の前号機であるOPUSAT「こすもず」は、多くのミッションを達成しましたが、パドル展開には失敗しています。1回目の展開ではきちんと展開機構(ニクロム線でテグスを焼き切る)に電流が流れましたが展開せず、数回チャレンジした後、ニクロム線が破断し電流が流れなくなり、万事休すとなり大気圏突入となりました。

今回のパドル展開は、リベンジミッションでもありました。


1回目の展開コマンド送信。


電流は正しく流れたようでした。

しかし、パドルは展開しませんでした。

パドルには、展開後の厚板を撮影するためのカメラが着いています。そのカメラの画像には、しっかりと衛星内部の姿映っており、展開していないことが見て取れました。(ちなみに宇宙で撮影した写真を受信したのも府大にとっては初めてのことでした。)


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「ひろがり」内部の画像


そのあと、3回目の展開チャレンジの最中、、、

急に電流が流れなくなりました。

OPUSATのときと同じです。

悪夢が蘇ります。


しかし、こんなこともあろうかと、「ひろがり」には、副系統のニクロム線が装備されていました。慎重に協議を重ね、ここぞというタイミングに1日1回だけ、展開コマンドを送ることになりました。


そして迎えた3月30日。


「ひろがり」から送られてきた画像には、「地球」の姿が映っていました。



「ひろがり」には「地球を撮影する」というミッションは元々なく、地球が写り込む確率は0ではないにせよ、高くはありません。

この画像を受け取ったとき、まるで地球がミッション成功を祝福してくれたようで、とても感動しました。


システム設計上の賭け

実は、「ひろがり」には、半ば賭けに近い、システム設計上の意思決定を行った部分があります。

人工衛星にとって、電力は血液です。

太陽光により発電し、電力を全身に巡らせて、様々な活動を行います。

うまく発電できなければ、栄養失調になり、衛星は死にます。


「ひろがり」の姿勢制御は、沿磁力線制御といって、展開前のパドルの垂直方向(機体Y軸)に搭載された磁力によって、機体Y軸が地磁気に沿うような姿勢になります。その他、磁気トルカやリアクションホイールを使ったアクティブな制御は行いません。したがって、「ひろがり」の姿勢については、地磁気にY軸が沿う以外は、事前に予想もできないですし、コマンドによって姿勢を変更することもできません。

私たちが恐れいていたのは、衛星が回転や振動もせずに、太陽電池の多い面が太陽に向かず、発電が十分にできない姿勢で安定してしまうことです。特に、パドル展開をした後は、太陽電池がある面が、-Z面に偏るため、展開したら最後、極めて栄養状態の悪い状況に陥る可能性がありました。

大型衛星であれば、アクティブな制御によって、これを回避する機能を持たせるでしょう。あるいは、衛星の表面積を大きくして、太陽電池を増やすという解もあったでしょう。しかし、「ひろがり」のプロジェクトの思想から、このモードを回避するために、2U-CubeSatという枠を外して、開発期間を年単位で延長するという選択肢はないと判断し、このリスクを受け入れるという意思決定を行いました。(ここの意思決定については、かなり介入したので、失敗したら私の責任だなと思っていました。)


「ひろがり」のパドル展開前、衛星の太陽電池電流のデータと磁気センサのデータを見ていました。 太陽が当たっている面の電流値が大きくなるので、そこから姿勢が分かります。 頭の中で衛星と太陽を動かして、この電流値と磁気センサのデータを再現するには、Y軸が地磁気に沿って動いており、Y軸回りに衛星が回転、Z軸回りに振動しているはずだという結論に至りました。 回転と振動がある姿勢になっているので、パドル展開の瞬間に電力が極端に欠乏することはないだろうと判断*3しました。


「ひろがり」ひろがった!

幸いにして、パドル展開後も衛星の電力収支は良好でした。 そしてついに、「ひろがり」が最終形態になるときが来ました。


いくつかの想定外がありましたが、厚板展開可能と判断し、4月3日、ついに最終形態への変身コマンドが送られました。


結果は展開せず。


しかし、ここまで何度も通った道です。翌日も再挑戦。


そして...



SFU(宇宙実験・観測フリーフライヤ)以来、26年ぶりにミウラ折が宇宙で展開されました。

しかも今回は、厚みのある板のミウラ折り展開であり、これは世界初の成果です。


大阪府立大学室蘭工業大学の学生達が4年もの歳月をかけて作り上げた人工衛星が、

ついに宇宙で「ひろがり」ました!!


一時は、宇宙にデブリを増やしたのではないかという不安も過りましたが、あきらめない姿勢と行動がこの成果に結びつきました。

日夜運用に取り組んでいる学生の不屈の意思には感嘆するばかりです。


アドバンストサクセスに向けて、「ひろがり」の宇宙での更なる活躍を期待しています。


www.sssrc.aero.osakafu-u.ac.jp

*1:撮影の様子もご覧ください。t.co

*2:祝辞の動画はこちら。youtu.be

*3:運用に関する最終的な意思決定は運用現場にいる学生が行います。