株式会社レヴィ ブログ

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【後編】日本のものづくりは「カイゼン」の積み重ねではもう勝てない?宇宙ステーションのシステム開発に携わった三菱重工元プロマネから学ぶ「システムズエンジニアリング」の重要性

この記事はレヴィの年末生放送~今年を振り返るついでに、宇宙ステーションも振り返る~でのインタビュー内容をまとめたもの (後編)です。(前編はこちら) インタビューの中で紹介された資料「サルでもわかるNASAシステム開発」は、こちらから無料ダウンロードしていただけます。

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「縦割りで開発してもうまくいかない」。ものづくりが複雑になるほど、その課題は大きくなる・・・。自動車メーカーも取り入れ始めたシステムズエンジニアリング。

三浦:アメリカを追い越すほど日本のものづくりが急成長した土台には「カイゼン」があって、現状はそのカイゼンの積み重ねだけでは新しいものを生み出せなくなってしまっているということですね。日本でシステムズエンジニアリングが重要になってきた状況がよくわかりました。

ナラ:以前NASAシステム開発についてのブログを書いたときには、「システム開発で失敗しないための3つのヒント」というテーマでまとめたのですが、今回「新しいことを生み出す」という視点が新鮮で驚きでした。

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竹内さん:システムズエンジニアリングは、失敗しないためにももちろん使えますが、やはり今後は新しいものをつくるというところが求められていくと思いますね。

ナラ:宇宙ステーション開発でシステムズエンジニアリングが役立ったところはどんなところですか?

竹内さん:すべてです。それがなかったらできない。

萩原:複雑なシステムになってくると、システムズエンジニアリングの手法を使わないと無理ですよね。要求が多すぎる。

竹内さん:縦割りで開発してもうまくいかないんです。「きぼう」のシステム要求を例にすると、「きぼう」には、環境制御系(空調など)、通信系(きぼう内部や宇宙ステーション本体とのデータ伝送など)、電力系のようなサブシステムがあります。、ひとつひとつのサブシステムの設計についてはみんなの頭にあって検討は進むのですけが、それらをどう横ぐしさしてつなげるかというところがなかなか進まない。それぞれのサブシステムをつなげるシステムがないとうまくいかないよねということになって、それらをEnd-to-endに繋げるために「管制システム」というシステムを提案し、それを中心に全てのシステムを繋ぎこんだんです。これもシステムズエンジニアリングの考え方で、キーとなるものです。

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それぞれのサブシステムをつなげるシステムをつくるという発想が システムズエンジニアリングの考え方のひとつ。

三浦:今のように、コンピュータとネットワークでぜんぶ制御する世の中じゃなかったですし、画期的だったと思います。

ナラ:システムズエンジニアリングの手法を取り入れることで、縦割りではなくて横ぐしで開発ができて、それぞれのシステムがうまく連携しながらどんどんよくなっていくというイメージがもてました。

竹内:自動車を例にすると昔と今の時代の変化がイメージしやすいと思います。昔の自動車というのは、エンジン、ハンドル、ブレーキがそれぞれが独立しており非常にシンプルなつくり。でも今の自動車では、自動で止まる、ハンドルをきる、スピードを変えるなどすべてコンピューターと繋がって制御されている。昔のような車のつくりかたでは対応できないですよね。なので、日本の自動車業界もシステムズエンジニアリングに力をいれだしている。こういう動きが、業界問わず今後の日本のものづくりの中で広がっていくと思います。

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より複雑なシステムが求められはじめた自動車業界で、 システムズエンジニアリングの手法が注目されている。

どうやったらシステムズエンジニアリングをはじめられる?プロマネは絶対理解しておくべきこと。

ナラ:システムズエンジニアリングをやるとすごくうまくいきそうというイメージはわくんですけど、どうやったらできるようになるのかが難しいのかなとおもって。言うは易く行うは難しというか・・。どうはじめたらいいのでしょうか?普段の仕事、ものづくりにいかすには?

竹内さん:小さなことからやってみるのが良いと思います。三浦さんがやっているようなシステムデザイン研究所の取り組みもありますが、そういうのに参加して実際にモデルを作ったり。自動販売機のモデルづくりなんかも勉強になると思いますね。

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レヴィが主催する「システムデザインの学校」では、 モデルをつかったシステム開発を体験できます。

三浦:レヴィでは学問としてのシステム工学を教えているわけではないですが、価値あるシステムをつくることができるようにとお客さんにサービスを提供しています。お客様対応を日々している萩原さんは、なにかアイディアやヒントがありますか?

萩原:ものづくりの世界って、当たり前ですが「ものをつくる」というところへの圧力が強いですよね。そういう最終的なものって具体的で手触りがあるんだけど、新しいものを生み出すためにシステムデザインでモデルを書いて議論していくっていうのは、空中にはしごをつくって、まだないものを想像してつくっていくみたいなもの。そのあたりが経験がないひとは難しい。なので、竹内さんがおっしゃったように、まずは簡単なものでもいいからモデリングしてみるというのがよいのではと思います。空中に足場をつくることに慣れていない人はまずは簡単なものから。

ナラ:お話をきいていて、お作法を習うというよりは「考え方を身に着けていくこと」がキーポイントだと感じました。そこで疑問があるのですが、そのシステムズエンジニアリングの「考え方」っていうのは、関わるメンバーはみんな理解していないとうまくいかないのものなんでしょうか。それともチームの中の一部のメンバー、例えばプロマネとかだけがわかっていれば大丈夫なのでしょうか?

竹内さん:まずはプロマネが理解していないと絶対にうまくいかないですね。チームの全員がすべて分かってないないといけないかというとそういうことでもない。ただし、それが必要という理解はしてもらう必要がある。分かんなくても、そういう風に進めるんだということを理解して着いていく。分からなければ分からないなりに着いていけばいい。 何でそんなことをやらなければいけなんだと否定にはいってしまうともうダメですね。

三浦:そのあたり、宇宙ステーションの開発の現場ではどうだったんでしょうか?

竹内さん:最初は日本の多くのメンバーはシステムズエンジニアリングのことは知りませんでした。NASAとやりとりするなかで、だんだんとこういう風にすすめればいいんだと、やりながら広がっていった。私たちはそれを取り入れざるを得ない業界だったのでスムーズだったが、そうでない、まったくシステムズエンジニアリングのことを知らない人の集団にやりましょうといって進めるのはとても難しいと思いますね。

萩原:「きぼう」のようなレベルで複雑なシステムはシステムズエンジニアリングの手法でないとつくれないからもちろんやるけれど、「いままでのやり方でも、できなくはない」ものはたくさんありますもんね。どんどんシステムは複雑になってきて、厳しくなっている。溺れかけている。でも作れなくはないから続けてしまっているという現状があると思います。

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「今のやりかたでも、できなくはないから・・」を続けていった先は?

竹内さん:改善、改善・・でやってると、それなりにできちゃいますからね。一部のコンポ―ネントを変える、一部の性能を良くすることで乗り切ってきたが、もうそれで戦える限界にきていて、発想を変えないと世界に勝てないところまできていると思います。だから今、システムズエンジニアリングが必要だと、やっと日本の自動車業界が気づいたところじゃないですかね。今後、どこの業界も同じに必要になってくることだと思います。

三浦:まさにそういうところで、システムズエンジニアリングが役に立つといいですよね。さまざまな業界に広げていきたいと思います。レヴィとしても。

竹内さん:Balus(レヴィがつくっている対話型モデリングツール)はおもしろいですよね。皆が簡単に使えるSEツールとして育っていってほしいと思います。

三浦:ありがとうございます、頑張ります。今日はお話を聞かせていただいてありがとうございました!    

インタビューの中で紹介された資料「サルでもわかるNASAシステム開発」は、こちらから無料ダウンロードしていただけます。

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