先日ブログでご紹介した、システム思考が学べるカードゲーム「ペジテの自転車」のデビューイベントです。 普段、人工衛星や人力飛行機を作っている学生たちに、システム思考を学んでもらいました。 参加者の評判も上々で、レヴィのモデリング人間開発力が大幅にレべルアップしたと言っても過言ではないでしょう。
このブログでも何度か取り上げていますが、レヴィは日本の宇宙システム活用人材の育成にも携わっています。*1 今回のシステム思考ワークショップは 、その一環で、大阪府立大学 I-site なんばでの開催でした。
システム思考ワークショップの構成
2時間という限られた時間でしたが、楽しんで学んでもらえたようです。
ワークショップなので、ゲームで遊ぶことが目的ではなく、システム思考の基礎を学べるようになっています。
- シンプルシステム編でチュートリアルプレイ
- シンプルシステム編をプレイ
- 複雑システム編をプレイ
- システム思考ショートレクチャー
「ペジテの自転車」のルールは若干複雑なので、慣れてもらうために、最初にシンプルシステム編でチュートリアルプレイをやってもらいます。 チュートリアルプレイを通じて、プレイヤーは「要求が見えていないと点数を稼げない」ことに気が付きます。 実際、次のプレイでは、参加者は率先して「プロトタイピング」などの要求を明確化する行動を取るようになっていました。
シンプルシステムの場合、要求の数が多くないので、ラピッドプロトタイピングが良い戦術になりますが、次の複雑システム編ではそうは行きません。 リソースが不足したり、恐ろしいイベントが発生したりします。 また、「視点カード」という他のプレイヤーには分からない要求を持つことになります。 要求の隠され方が多彩になり、お互いの知見の共有が重要になってきます。
ゲームをプレイした後の振り返りも重要です。 なぜ成功したのか、あるいはなぜ失敗したのかを考えてもらい、システム設計を進める上での課題に気が付いてもらいます。 実際のシステム設計の現場とゲームとの対応も説明します。 課題に対する理解が深まったところで、システム思考についてのショートレクチャーを行います。
これまでもシステム思考のレクチャーは幾度となく行ってきましたが、学生の納得度は著しく向上したのではないかと思います。 (事後アンケートを後ろに載せています。)
事後アンケートの結果
すべての回答者がカードゲームは面白かったと答えてくれました。 もちろん、システム思考の理解にもつながったようです。
自由記述のアンケート結果も、人工衛星や人力飛行機を作っている学生達だけあって、具体的な課題が出てきて面白いです。
「普段の業務・役割の中でシステム思考が必要となる課題はありますか?」
- ある要素に設計変更が必要な際に,全体にどのような影響があるかを考えるときに必要になる。
- 統合した状態でのプログラムで意図しない挙動が生じたとき、そのシステムの構成を把握し、どこに問題があるかを探る必要がある。
- 設計と実機とのズレ(機速やパワー)の原因と対策を見つける。
「システム思考講座を受けて、課題についての考えが変化したり、具体的に行動してみようと思ったことはありますか?」
- まずチームをシステムとして考えることから始めたい。
- 現在学校で行っている研究について、なぜ研究が必要なのか、要求は何なのか、もう一度見直してみようと思った。
- 視点を共有する方法を考えてみようと思った。
「ゲーム中で印象に残っているシーンや気づきはありましたか?」という質問の回答は、なかなか秀逸でした。
- 矛盾が多い要求に対していかに最適解を出していくべきか考えることができた。
- 無限会議が連続して2ターン続いた時は辛かった。これは実際の現場で起こると致命傷だと感じた。
- 様々な要求があり、全てを満足するのは難しいことが体感できた。また、同じ設計に対しても様々な視点があり評価が異なることが再現されていたことが印象に残った。
- 多くの要求を満たそうとするほど、システムは複雑になり、システムを構築することが難しくなると感じました。
- 強制的に再設計を求められるとは想像しておらず、面食らいました。
- ゲーム内のイベントが衛星開発で経験したことと結びつくと、とても面白かった。実際のどのようなことがモデル化されたゲームなのか考えながらゲームを行うことで、より楽しめたと思う。
- 複雑システム編で、視点カードの点数への影響が強く作られていた。また、視点カードを仲間に見せる事ができる行動カードがあり、そのカードからは「腹を割って話そう」というような感じがした。
- 要求が分からないとゲームが非常に進めづらくなり、物作りを実際にしなくてもシステム開発で起きることを体験できて面白いと思った。
- 視点カードのマイナスが大きすぎる。
- イベントカードの効果が設計に大きく関わること。
これらの教材を活用したセミナープログラムや企業向け研修プログラムなども準備しています。 システム思考、システムモデリング、システムエンジニアリングなどに関して効果的に学ぶことのできるセミナーや教材についてご関心のある方は、レヴィのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡下さい。
2018年度 PERSEUSワークショップについて
実は、今回のイベントは、3部構成でした。 レヴィによる「システム思考ワークショップ」の前に、株式会社インディージャパンの津嶋 辰郎氏によるご講演と東京工業大学の坂本 啓准教授によるご講演がありました。
www.perseus.21c.osakafu-u.ac.jp
津嶋さんは、 府大の卒業生でもあり、これまで多くのスタートアップを支援してきた経験のある方です。 実は、レヴィもメンターとしてお世話になっています。*2
「アントレプレナー・イノベーター」と言われると、自分には向かないと考える学生も多いように思います。 そういう学生たちに対し、アントレプレナーシップは誰でも持つことができるということ、イノベーションを起こす企業を作っていくためには異なるスキルを持った多様な人材が必要であることを、様々事例を交えて分かりやすく伝えてくれました。
特に、組織の段階と課題に応じて、「発見力」と「実行力」が重要度が変わっていくことの話や、実際にソニーやAppleという会社にも異なるタイプの創業者がいたという話は、学生の心にも残ったのではないかと思います。 参加者の何人かは、さっそくクリステンセンの著書「イノベーションのDNA」を購入したに違いありません。
「今の⾃分が求めている欲求を知り、まずはそれを満たす」や「世界は⾃分の中の“認知”を通して変えられる」というメッセージは、アントレプレナーとして足掻いているレヴィメンにも心に響く言葉でした。
坂本先生は、超小型衛星で日本をリードする東京工業大学でエンジニアリングデザイン教育と超小型衛星開発を担当されています。 エンジニアリングデザイン教育に関しては、書籍も出されています。
スタンフォード大学のD.Schoolをベースに様々改良を加えており、先進的な教育をやられています。 東工大に進学したいと思ってしまった学生も少なからずいたのではないでしょうか。 「デザイン思考のようなプロセスがあることで、振り返りの質が向上する」という観点は、はじめて見聞するもので、非常に感銘を受けるものでした。
超小型衛星開発では、今年1月にイプシロンロケット4号機(革新的衛星技術実証1号機)で打上げられたOrigamiSat-1の責任者を務めておられます。 衛星という複雑なシステムの開発とデザイン思考という一見両極端に位置するような考え方ですが、実は根っこの部分では似ているところも多くあります。 特に、運用のことをよく考えた上で衛星設計を行わないと後で非常に苦労するという体験談は、ユーザー中心の設計を唱えるデザイン思考に通じるものがあるかと思います。
そういえば、大阪府立大学で開発した超小型衛星バスOPUSAT-KITでは、テストボードという基板があるのですが、これは前の人工衛星開発のときに試験で苦労した学生たちが後輩達に同じ苦労をさせまいと開発したものです。 これもまた、デザイン思考的な考え方から生まれたシステムの一例だと思います。
レヴィにとっても学びの多かったワークショップでした。 関係者の皆様、ありがとうございました!
*1:文部科学省 地球観測技術調査研究委託事業 宇宙航空人材育成プログラム「超小型衛星開発とアントレプレナーシップ教育を通じた宇宙システム活用人材の育成」に共同参画機関として参加
*2:レヴィは川崎市ZENTECH Acceleratorに採択され支援を受けています。