こんにちは。レヴィの吉澤です。
先日、シンガポールに行ってきました。2月5日〜7日に開催されたアジア最大の宇宙技術のイベントGlobal Space and Technology Convention (GSTC)に参加するためです。
レヴィは宇宙システム活用人材の育成*1に携わっていて、一昨年のヨーロッパ、昨年のアメリカに続き、今回は「アジア」の宇宙技術・宇宙スタートアップの最新動向を調査しました。
いろいろと学びがあったので、簡単にご紹介します。宇宙好きが集まっているレヴィとしては、これからも宇宙技術や宇宙スタートアップを支援していきたいので、この記事が何かの参考になれば嬉しいです。
これまでの参加記事も、ぜひ合わせてご覧ください。 blog.levii.co.jp blog.levii.co.jp
GSTC 2020
GSTCは、シンガポール宇宙技術協会 (Singapore Space and Technology Association, SSTA)がシンガポールで毎年開催している宇宙技術の国際会議・展示会です。アジアの宇宙産業の基盤を構築することを主な目的としています。参加者は2008年の80人から今回の800人まで増え続けていることから、年々関心が高まっていることが分かります。
会議では、アジア市場を中心として、宇宙機関や企業の代表者・技術者が集まり、最新の宇宙技術・宇宙産業の動向と展望について議論します。
今回は新型コロナウイルスへの対策で、中国に渡航歴のある人は入国が停止されていたため、残念ながら中国関係の発表はありませんでした。
名称 | Global Space and Technology Convention (GSTC) |
会期 | 2020年2月5日(水)〜7日(金) |
会場 | グランド ハイアット シンガポール |
主催 | シンガポール宇宙技術協会 (Singapore Space and Technology Association, SSTA) |
講演者 | 60人以上 |
参加者 | 800人以上 |
参加企業 | 300社以上 |
テーマ(一部) |
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宇宙技術の最新動向
まずは宇宙技術の最新動向についてご紹介します。
衛星の性能向上
地球観測については、地上分解能の向上、複数センサーによる観測、コンステレーション*2による時間分解能の向上が注目されました。具体的な内容について説明していきます。
Airbusは、空間分解能30 cmの新型プレイアデス4機のコンステレーションによるサービスを発表しました。なんとリクエストから10分でデータが取得可能になるとアピールしています。
Maxarは、地理空間情報クラウドを提供しており、空間分解能30cmの光学衛星を発表し、戦闘機の画像を使ってデモを行っていました。
Surrey Satellite Technologyは、複数センサーの組み合わせとコンステレーションによる観測技術を発表。
衛星データがクラウドベースのライブラリと連携するシステム構成がトレンドで、利用者にとっては、管理コストが下がると共にさまざまなアプリケーションに容易に使えるようになります。
衛星データを利用したアプリケーション
衛星の性能向上に対応して、様々なアプリケーションが提案されており、全く新しい価値創出が期待されます。
災害対策・災害対応、IoTを使った家畜の管理、プレジャーボート・漁船管理等のアプリケーションが紹介されました。
衛星通信のサイバーセキュリティ
衛星の利用領域が拡大することで、個人情報やインテリジェンスが電波でやり取りされることになります。パネルディスカッションでは、重要な通信を保護するためのサイバーセキュリティについての議論が行われました。
ブロックチェーンの技術を活用し、第三者による改ざんが起きない仕組み作り等について提案されました。
シンガポールの取り組み
ここから先は、シンガポールでの滞在を含めて、シンガポールの宇宙産業への取り組みについて思ったことを書こうと思います。
アジアの宇宙市場の拡大とシンガポールのハブ戦略
衛星の性能向上に加えて、小型衛星の低コスト化はますます進んでいて、ASEAN諸国でも宇宙技術・衛星データを活用した新しい市場が期待されます。このような中で、シンガポールはアジア・ASEANの宇宙産業のハブとして機能することを目指していると感じました。
今回のイベントでは、エキシビジョンでNational Additive Manufacturing Innovation Cluster, NAMICがシンガポールの製造技術・製造業との橋渡しとして案内していました。
ヨーロッパ企業のマーケティング担当のプレゼンテーションでは、アジア市場をターゲットにした話が見られ、ヨーロッパの宇宙機関・企業もシンガポールをアジアの玄関口として認識していると感じることが多かったです。
シンガポールは小規模国家の戦略として、成長分野への集中投資による外資系企業誘致、産業振興、雇用創生、人材育成、という成長戦略を取ってきました。例えば航空産業では、アジアの航空市場の成長を見越し、130社を超える航空企業がシンガポールに拠点を置き、アジア最大のエコシステムを構築しています。アジアの宇宙市場が大きく成長すれば、航空産業と同じような構図になるのかもしれません。
シンガポールの都市デザイン
都市デザインの点でも、アジアのハブとしての需要に対応できるよう拡張され続けています。
イベント後に都市開発庁 (Urban Redevelopment Authority, URA) のシンガポールシティギャラリーを訪れ、シンガポールの都市再生プランについて理解を深めることができました。
シンガポール・チャンギ国際空港は、新しいターミナルが建設中で、滑走路は2本から3本に拡張され、2025には現在の倍の1億5000万人が利用可能になる予定です。その他にもシンガポール港、道路交通網、工業地帯等が効率的にデザインされていることが分かり、都市計画から産業までが一貫したデザインであることがシンガポールの強みだと理解できました。
現地の雰囲気
ここから先は、会場の様子や発表、展示をいくつかピックアップして、現地の雰囲気をご紹介しようと思います。
シンガポールの雰囲気については、こちらの記事をご覧ください。
会場
会場はシンガポールの中心街に位置するグランドハイアットシンガポールのカンファレンスルームでした。
日中の外の気温は30℃を超えていたのですが、カンファレンスルームの中は冷房が強く、長袖・長ズボンを着ていても凍えるように寒かったです。
新型コロナウイルスへの対策で、会場では出入りのたびに体温をチェックされる厳重ぶりです。シンガポールはこのような対応が非常に早い印象を受けました。
エキシビジョン
エキシビジョンでは30社以上の宇宙企業が展示を行っていました。
ASAGUMO
イギリスのスタートアップ「スペースビット」の月面四足歩行ロボットです。攻殻機動隊のタチコマみたい*3に蜘蛛のような脚で歩行するのがとてもユニークです。2021年に予定されているミッションでは、着陸船から歩行で移動し月面探査の技術実証を行います。
NAMIC
NAMICは、シンガポールの3Dプリンター技術の研究機関を集積したイノベーション・クラスターで、革新的な製品・新たなビジネスの開発を推進しています。展示では、シンガポール国内の企業との連携を推進する役割を担っていました。
南洋理工大学: AIを使った画像再構成法でハリケーンによる被害解析
シンガポールの名門校南洋理工大学 (Nanyang Technological University, NTU) の研究です。衛星画像を解析し、ハリケーンによる被害、例えば道路や建物の破壊状況の把握に活用します。衛星画像をセミリアルタイムで取得できること、取得した大量のデータをAIで解析することで、このアプリケーションを実現しています。
シンガポールの宇宙スタートアップ: Chipsafer
Chipsaferは、家畜の牛にデバイスを装着することで、人工衛星を使っていつでもどこでも牛の異常行動を検知するソリューションを提供しています。オーストラリア、ブラジル、ウルグアイ等で、すでに試験導入されています。
日本の宇宙スタートアップ: Synspective
日本の宇宙スタートアップSynspectiveです。2020年にSAR衛星の開発・打ち上げを行い、データサービスを提供します。
Singapore Space Challenge
サイドイベントとしてSingapore Space Challengeのピッチが行われました。
Singapore Space Challengeは、シンガポール宇宙技術協会が開催している学生向けの設計コンテストです。今回は「衛星によるスペースデブリの除去」がテーマでした。
ピッチの内容はともかく、ピッチの時間が終わって司会者に制止されてもさらにプレゼンテーションを続ける姿勢を見て、海外の学生のハングリーさに驚かされました。
レヴィの創業メンバーはJAXAで同じようなプログラムにスタッフとして参加していたので*4、とても懐かしい気持ちになりながら見ました。
3日目には新型コロナウイルスの対策がさらに強化され*5、Singapore Space Challengeの授賞式が中止になってしまい、どのチームが優勝したのか分からないまま終わってしまいました。残念!
まとめ
今回は新型コロナウイルスの影響でイレギュラーな感じでしたが、とても学びの多いイベントでした。行ってみないと分からない現地の空気や感覚が得られたのはとても良かったです。この記事を読んでくれた方に少しでもそれが感じられたら嬉しいです。
*1:文部科学省地球観測技術等調査研究委託事業宇宙航空人材育成プログラム「超小型衛星開発とアントレプレナーシップ教育を通じた宇宙システム活用人材の育成」に共同参画機関として参加
*4:JAXA宇宙科学研究所の高校生向け教育プログラム「君が作る宇宙ミッション」にスタッフとして参加