株式会社レヴィ ブログ

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超小型衛星「ひろがり」開発プロジェクトのあゆみ

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超小型衛星「ひろがり」のイメージ画像

レヴィの代表取締役兼料理長の南部です。

2021年2月21日未明に、超小型衛星「ひろがり」がアンタレスロケットで打上げられました。

翌日の夕方、野口宇宙飛行士によりシグナス補給機がキャプチャされ、ISSとのドッキングに成功、「ひろがり」が国際宇宙ステーションに到着しました。

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シグナスのキャプチャー (出典: NASA TV)


良い機会なので、これまでの経緯を振り返ってみたいと思います。

あくまで教員として関わった私の主観*1です。学生からは、また異なる景色が見えていたことと思います。

今回はプロジェクトに焦点を当てていますが、システムデザインを巡る物語もありますので、別途記事を書こうと思います。

超小型衛星「ひろがり」

「ひろがり」は大阪府立大学室蘭工業大学の学生が力を合わせて、4年間もの歳月をかけて開発した2UのCubeSatです。

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超小型衛星「ひろがり」のフライトモデル

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超小型衛星「ひろがり」の組み立ての様子


主なミッションは2つあります。

これらのミッションについては、先日の「レヴィ生放送 #2」でも詳しく語っているので、ご興味がある方はこちらを御覧ください。

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プロジェクトの立ち上げ

2016年も終わろうとしていた頃、宇宙科学研究所時代の恩師*2でもある樋口先生(当時室蘭工業大学教授)に超小型衛星のことを相談したのがはじまりだったと思います。

OPUSAT-KITという衛星バスを作ってはみたものの、肝心のミッションがなかったため、宇宙科学に貢献できるテーマを探していました。

その時に話題に上がったアイディアが、板ミウラ折りの展開と軌道上計測技術の宇宙実証でした。


その後、2017年2月に、プロジェクトキックオフのオンラインミーティングを行い、「ひろがり」プロジェクトが立ち上がりました。

プロジェクト立ち上げから1年後に、ようやくミッションと衛星の大枠の仕様が決まり、2018年の2月にJAXAとの有償打ち上げ契約を結びました。この頃、ISSからの放出サービスの民間移管*3が進んでいたため、JAXAと契約する最後のチャンスでした。


ここまでやって、2018年3月をもって、私は大阪府立大学を退職しました。

その後も、システム思考関連の授業やペルセウス*4の活動で、月に数回は府大を訪れていましたが、衛星開発に関わる頻度は劇的に減りました。

分断されたチーム

私の目論見では、前号機OPUSATの開発経験、CubeSat標準バスであるOPUSAT-KITがあれば、開発はスムーズに進むはずでした。しかし、実際には、4年という歳月を要してしまいました。

原因には枚挙に暇がありませんが、ひとつには、チームになるまでに時間がかかったということがあったように思います。

プロジェクトの1年目は、大阪府立大学と室蘭工大の間に大きな分断がありました。

モチベーション、情報、経験、環境、学年など様々な差異があり、どこかチグハグで、ミーティングの際にも互いにフラストレーションを感じていたと思います。


分断の解消のきっかけを作ったのは小木曽先生*5でした。


「ひろがり」は当初、OPUSAT-IIと呼ばれていました。 OPUSATの後継機として、長らく府大で使われてきたコード名です。 「OPUSAT」の由来はOsaka Prefecture University Satellite なので、室工大と二人三脚で開発を進める衛星を表した名になっていませんでした。


当時は配慮が足りず、室工大が参加してくれた後も、OPUSAT-IIという名をそのまま踏襲していました。

しかし、それは「おかしいだろう」という小木曽先生の働きかけで、2018年6月24日のPDR(基本設計レビュー)の際に「ひろがり」という名前が生まれ、室工大と府大をつなぐ要となりました。

名は体を表すと言いますか、「ひろがり」と名前を改めるともに、また情報の非対称性も極力なくすようにした結果、だんだんとワンチームとしてまとまっていきました。

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命名「ひろがり」

進まない審査

衛星をロケットで打ち上げるためには、NASAおよびJAXAが実施する安全審査を通過する必要があります。

安全審査には、フェーズ0からフェーズ3までがありますが、フェーズ2が終わらないとシステム要求が確定しません。

「ひろがり」では、フェーズ2の審査を中々受けることができずに、衛星開発を進めたくても進められない状況に陥ってしまいました。

延期が重なり、日程調整のメールだけで100件を超えていたという異常な状況でした。


レビューを受けるにあたり、JAXAの要求水準に達していなかったという側面もありますが、問題点がいまひとつはっきりせずに不信感を募らせていました。(CAEの精度をどこまで求めるのか、解析モデルの特性をどこまで考慮するのかで、審査員と私とでだいぶ意見に隔たりがありました。)


この頃が一番、学生のモチベーション維持が難しかった時期だったような記憶があります。


結局、当初予定から8ヶ月遅れて、2019年10月に、なかば無理を言って安全審査フェーズ2を受けました。


これでスムーズに行くぞ!と思いきや、低下したモチベーションと歪んだリズムを取り戻すのに時間がかかり、JAXAに約束したアウトプットを出すのに数ヶ月のビハインドという事態になってしまいました。

契約解除の危機、そしてコロナ禍

開発が遅れている中、2020年になると、JAXAよりなにやら恐ろしい話が聞こえてきました。

有償打ち上げの契約は、毎年更新する必要があるのですが、JAXAの方針で「2020年度をもって契約を終了する」との通達がありました。

通常のスケジュールでは、打ち上げの半年前には衛星を引き渡す必要があるので、極めて厳しいスケジュールです。

せっかく掴んだ宇宙への切符が失われるかもしれない。

そんな悲壮感が漂いもしましたが、「可能性がゼロではないなら頑張ろう!」と、学生たちは一致団結して走り切ることを決意していました。強いですね。

教員たちはというと、間に合わせることを第一としつつも、もしものときのためのプランBの準備を裏で進めておりました。

ここからの学生の推進力は、凄まじいものがありました。

上回生を中心に粉骨砕身で頑張っていました。その頑張りに引っ張られ、多くの方々が衛星開発を助けてくれました。

しかし、世の中は残酷です。

開発には猶予がないにもかかわらず、コロナによる大学の閉鎖、心無い人による爆破予告などで、開発は思うように進みませんでした。

さらに、衛星の設計や製造にミスがあることも発覚し、非常に難しい意思決定をしなければなりませんでした。

リスクアセスメントの勘所が必要で、さすがに学生だけではどうにもならないので、この頃は、オンラインミーティングを頻度高く重ねて、開発に積極的に関わるようにしました。 これはさすがに間に合わないだろうというような状況でしたが、学生たちはめげることなく、前を向いて進み続けました。

この不屈の意志は、本当にすごいことだと思います。

色々大変でしたが、学生たちの忍耐力、精神力、気合的な諸々が遺憾なく発揮され、安全審査フェーズ3に必要な環境試験もなんとか終えられるかもしれないというところまで来ました。 特に、衛星構体の作り直しを超速で行ってくださった大阪府立大学の生産技術センターと、何回もリスケとなった振動試験のための設備を快く貸してくださったIMV株式会社には大変お世話ににりました。

そして、JAXASED、Space BDの方々による怒涛のサポートによりなんとかNASAの説得にも成功し、無事、審査を通過することができたのが、2020年10月のことでした。

引き渡し、そして打上げ

2020年10月16日、ついに超小型衛星「ひろがり」を引き渡すときが来ました。

3Dプリンタで作ったケースに包まれた衛星をカメラケースにいれて、新幹線で運搬するという、衛星らしからぬ移動手段で大阪府立大学からつくば宇宙センターへと運ばれました。

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衛星運搬の様子

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衛星引き渡しのために訪れた つくば宇宙センターの玄関にて

慎重に引き渡し作業を終え、もう無理なのではないかと思われた瞬間を迎えました。

ほっとしました。

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「ひろがり」の引き渡し完了

緊張の糸が切れたため、その後に撮影した写真は少しだけ舞い上がっています。

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引き渡し後の記念撮影(中央でナニカ放出しているのが著者)


引き渡しから4ヶ月後、「ひろがり」は海を渡りNASAのもとへ行きました。


そして、2021年2月21日午前2時35分に、ワロップス空軍基地より国際宇宙ステーションへと打ち上げられました。

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「ひろがり」を載せたアンタレスロケットの打上(出典:NASA



本当に長い道のりでした。


道を塞ぐ大きな障害もありました。


しかし、歩みを止めなかった学生たちのおかげで、進み続けることができました。


宇宙へ行った「ひろがり」が、宇宙ステーションより放たれ、地上に産声を届けてくれる日を期待と不安を胸に待っています。


そう、信じがたいことに、これからが本番です。





www.sssrc.aero.osakafu-u.ac.jp

*1:南部は、2018年3月まで大阪府立大学助教も勤めていました。OPUSATやOPUSAT-KITプロジェクトの責任者でもありました。現在は退職し、非常勤講師兼客員研究員という立場で在籍しています。

*2:直接的な指導教官は小野田先生だったのですが、D論公聴会の半年前に小野田先生は宇宙科学研究所の所長になられたので、樋口先生に博士論文の主査を務めて頂きました。

*3:現在超小型衛星放出については、Space BD株式会社および三井物産株式会社が担っており、サービス料金も当時と異なっています。

超小型衛星の放出(J-SSOD) | 「きぼう」利用のご案内 | 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター | JAXA

*4:レヴィは、文部科学省 地球観測技術調査研究委託事業 宇宙航空人材育成プログラム「超小型衛星開発とアントレプレナーシップ教育を通じた宇宙システム活用人材の育成」に共同参画機関として参加しています。

*5:小木曽先生は、大阪府立大学の教授で、「ひろがり」衛星の実施責任者です。