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羅針盤 vol.4 「システム工学の出身地」

システム工学は、焼き鳥の串である 糸川英夫

こんにちは、システムデザイン研究所(SDL)の三浦です。

今回は「システム工学とは何か?」について少し考えてみたいと思います。

システム工学の定義

システム工学(Systems Engineering)の定義として最もよく引用されるのが、INOCOSE(国際的なシステム工学の専門家団体)による次のものです。

システムを成功裏に実現するための、分野横断的なアプローチおよび手段。
出典:INCOSE SE Handbook

日本語の百科事典では次のように表現されています。

システムの目的をもっとも効率よく達成するために諸科学・技術を総合的・体系的に適用して、複雑な問題を解析・解決する総合的な工学的方法。
出典:日本大百科全書/小学館

いずれもシステムという言葉を前提に定義されているので、「そもそもシステムとは何か?」が気になってしまうのですが、それはまた別の記事でじっくり考えたいと思います。ここではとりあえず「多数の要素が組み合わさって機能しているもの」くらいに思っておいて下さい。

「システム」のことに目をつむっても、上記の定義文のままだと「システム工学ってどんなもの?」について少しイメージしにくいですよね。

私自身がシステム工学を学んでいく中で感じているのは、システム工学はベストプラクティス集のようなものだということです。

原理や理論から導出されたものではないけれど「こうすれば複雑なものを理解したり構築したりするときに上手くいくよ」という先人たちの知恵と経験を集めて、体系的に整理したものがシステム工学の中身なのです。

システム工学には複雑さに挑んできた先人たちの試行錯誤の結果が詰まっていて、それを使うことで私達は先人たちが苦労して乗り越えてきた失敗を回避して効果的に複雑なシステムを扱えるようになります。

このように考えるとシステム工学のことが少しイメージしやすくなりませんか?

具体的なベストプラクティスの中身については、羅針盤シリーズの中で少しづつ紹介させて下さい(先送りが多くてすいません)。

システム工学の出身地

上記で見たようにシステム工学とは「先人たちの知恵が詰まった、複雑さに挑むためのベストプラクティス集」であると言うことができますが、ここでの先人たちとはどのような人たちなのでしょうか?

その答えの一つとして、宇宙開発に取り組んできた人たちが挙げられます。

宇宙機の開発には次に示すような特徴と長い歴史があり、他の分野に先駆けて複雑さを扱ってきました。

  • 様々な専門性が必要:推進、構造、電気電子、構造、材料、制御…
  • 構成要素が多い:部品数がとても多い、ソフトウェアの規模がとても大きい
  • ステークホルダがやたら多い
  • 制約が多い:宇宙に起因する制約、安全に関する制約

複雑システムの代表的な例としての宇宙機 画像出典:JAXAデジタルアーカイブス

例えば1960年代にアメリカが取り組んだアポロ計画は、それまでに人類が取り組んできたものと比較すると桁違いの複雑さを持ったプロジェクトでした。

アポロ計画で開発された宇宙機の部品点数は400万点を超え、電線の総延長は60キロメートル、設計図面は10万枚にも及んでいたようです。そしてピーク時は40万人という人間がプロジェクトに従事していました。

そのような巨大な組織が一致団結して、極めて複雑なシステムをつくりあげるためには、複雑さを扱うための方法論が必須です。必要に迫られたNASAは、アポロ計画の中で複雑さを扱うための方法論を体系化し運用することで、アポロ計画を成功に導きました。この時に体系化された方法論やアプローチが現代のシステム工学の基盤の一つになっています。

まさに、宇宙開発はシステム工学の出身地であると言えるのです。

レヴィのWebサイトでは、NASAがまとめたシステム工学のバイブル「NASA Systems Engineering Handbook」を日本語で分かりやすく解説した「サルでもわかるNASA式システム開発」を配布しています。まだご覧になっていない方は、ぜひダウンロードしてみて下さい。上記のアポロ計画にまつわる話も掲載しています。

levii.co.jp

やきとりの串

実は、日本にシステム工学の概念が持ち込まれた経緯も、宇宙開発に関連しています。

ペンシルロケットにはじまる日本の宇宙開発を先導した糸川英夫先生は、「システム」や「システム工学」の概念導入と実践に力を入れていました。

糸川先生に師事した長友信人先生が、糸川先生の言葉を振り返った記事を書いているのでその一部を紹介します。システム工学の意義と重要なポイントがギュッと詰まった一節です。

「システム工学は焼き鳥の串である」という糸川の至言がある。焼き鳥はネギやらタンやらハツやらが一本の串に支えられて大変食べやすいように串指しにされている。串そのものは食べられないが、多くのおいしい物を一本の焼き鳥にまとめて、食べやすいようにする。人間の事業も、ヒトと時間とカネとが複雑に絡み合って成り立つわけだが、これを上手にアレンジして見事な戦略・戦術・スケジュールに仕上げて管理していくのが、システム工学の真髄である。糸川はこうしたヒラメキのある類比で仕事の本質を表現することがよくあった。出典:ISASニュース No.217(1999.4)

レヴィの創業メンバーは、糸川先生の意志と技術的系譜を引き継いでいる宇宙科学研究所で一緒に学んでいた仲間たちです。私自身(三浦)は現在も宇宙科学研究所で宇宙システムの研究開発に取り組んでいます。

そんなレヴィだからこそ、システム工学の発展と普及に力を入れていきたいと考えています。

M-3SIIロケット(左)とM-Vロケット(右) @宇宙科学研究所

今回はシステム工学の定義や背景について紹介してみました。羅針盤の他の回では、システム工学に含まれる具体的な考え方や手法をピックアップして解説するということもやっていきたいと思います。