大器をつくるには、急ぐべからずこと。吉田松陰(幕末の教育者)
こんにちは、システムデザイン研究所(SDL)の南部です。 システム工学やシステム思考は、複雑化する現代社会において進めべき道を示してくれる羅針盤です。
今回は、システムの「はたらき」について、書きたいと思います。
扇風機の「はたらき」
ある夏の暑い日のこと、あなたは、ふと思い立ち、扇風機をつくることにしました。
さぁ設計してみましょう!
羽があって、網があって、送風する部分が回転して、、、、
「どんなモノで構成されているか」から考えようとしていませんか?
ここではあえて、モノから離れて扇風機を捉えてみましょう。
扇風機の「はたらき」はなんでしょうか?
扇風機の一番大切な「はたらき」は、「室内に空気の循環を作る」ことではないでしょうか?
さらに、その「はたらき」は、「風をつくる」ことと「風の向きをかえる」ことに分けられます。
さらに分解することもでき、次の図のような「はたらき」の階層関係をつくることができます。
ダイソンの扇風機を思い出してください。
羽がないですよね?
でも、扇風機です。
なぜか?
扇風機の「はたらき」をしているからです。
「はたらき」で捉えると、ダイソンの扇風機も、昔ながらの扇風機も同じように理解することができます。
逆に、モノから捉えた場合、「羽があって、網があって、、、」というのは選択肢を無意識に狭めていることになります。
モノと「はたらき」の癒着を剥がすことが、システムデザインでは大切です。
「はたらき」またの名を「機能」
システムズエンジニアリングでは、システムの「はたらき」のことを「機能」と呼びます。
対象システムを主語にして、システムがやることを考えます。
NASAのプロセスでも明確に定義されており、モノの前に機能を考えることが推奨されています。
論理分解は、NASAのプロジェクトが利害関係者の期待に応えられるよう、詳細な機能要求を作成するためのプロセスです。このプロセスは、プロジェクトを成功させるために各レベルで「システムが達成すべきことは何か?」を特定します。
モノと機能の区別をもう少し見てみましょう。
機能 | モノ |
---|---|
電気を蓄える | バッテリー、コンデンサ |
代金を支払う | 紙幣、クレジットカード |
遠隔地にいる人に情報を伝える | 手紙、電話、伝令使 |
どうでしょうか? モノと機能の違い、掴めてきたのではないでしょうか?
また、機能は、さまざまな抽象度で表現することができます。
階層ツリーのようなモデルで描くことで、抽象度の行き来をすることができます。
機能とモノの行き来
実は、「機能」という視点だけでは、「はたらき」を表現することが難しくなります。
どのように使うのか、どのようなモノで構成されているのかを並行して考えています。
機能の抽象度に合わせて、モノの粒度も変わってきます。
例えば、上から二番目の階層(抽象度)の機能で扇風機を捉えた時には、モノの構成は次のようになります。
すごく大雑把ですが、やりたいことはわかります。
次に、四番目の階層の機能で捉えるとどうなるでしょうか?
だいぶ細かい構成が決まってきています。
抽象度により、見える全体感が変わるので、ちょうど良い抽象度をみつけることが大切になります。
大器をつくるには、急ぐべからずこと。
モノから入ると出来上がりがイメージしやすく、早く仕上がるように感じます。
しかし、実際には局所最適に陥ったり、出戻りや不具合対応に追われ、時間がかかってしまっていないでしょうか?
実際、NASAのプロジェクトの統計では、上流設計をちゃんとやるとコストオーバーランやスケジュールオーバーランが防げるという結果が出ています。
「機能」という視点をもち、システムの「はたらき」を考えることは、人類が見つけたプロジェクト遂行のベストプラクティスと言えるのではないでしょうか。